日々、コロナと戦う人々を前に
私には何ができるだろう。
ひとりのアーティストの祈りと願いから
「あまびえ塗り絵プロジェクト」は始まりました。
この思いが海の向こうまで届きますように。
こんにちは。カルチャーウォッチャーの藤木高子です。
今回はアーティスト小熊麻紗子さんの「あまびえ塗り絵プロジェクト」についてご報告します。
小熊さんは精密な油絵、アートフィルム制作、ディレクションを手がけるマルチアーティストです。
日本古来の言い伝えに願いを乗せ、海外に届けたい。
コロナ禍でアーティストの自分に何ができるか、小熊麻紗子さんは自らに問いかけました。そして発足した「あまびえ塗り絵プロジェクト」。
あまびえ様って誰?
日本では、パンデミックが蔓延し始めた頃から、しだいにあまびえ様が注目されはじめました。あまびえ様は疫病が流行ると現われる妖怪で、その姿を描いて世に広めれば疫病が終息すると言い伝えられています。
「あまびえ塗り絵プロジェクト」とは?
「あまびえ塗り絵プロジェクト」は、その伝承に基づいた企画で、SNS上であまびえ様の塗り絵を配布して、人々に塗ってもらうよう呼びかけました。この企画は、一歳半から95歳の人々、のべ800人以上の賛同を得、たくさんの塗り絵が集まりました。
集めた800枚超の塗り絵は、福岡の美術館に一週間ほど展示された後、糸島市の六所神社にてお焚き上げされました。
せっかく描いた絵をなぜ焼いたのか?
お焚き上げをした後は、神社の宮司様が灰を川に流し、海へ届けました。
せっかく描いた多くの絵をなぜ、焼いてしまったのでしょうか。それは、炎によって絵を浄化し、絵にこめられた人々の想いを天に届けたいと願ったからです。そして、”絵を焼く”という行為自体もアートと捉え、一連の流れをアートフィルムとして昇華しました。
「あまびえ塗り絵プロジェクト」を海外に届けたい
小熊さんは、このプロジェクトがグローバルな共感を得られると思い、海外にも知ってもらいたいと考えました。しかし、誰にどうやってリーチアウトするのかわかりません。そこで、ニューヨークでアートイベントを手がけた実績を持つ藤木に声がかかりました。
海外に届ける際のハードルは? 日本独自の思想をどうやって伝える?
あまびえ様は、もちろん海外ではまったく知られていません。また、「お焚き上げ」など、日本独自の思想に基づいている概念は、たんなる直訳では伝わりません。そこで、日本古来の思想を分析し、NYの人々にも理解できるような形の英文として再構築し、わかりやすく表現しました。
アーティスト本人が気づいていなかった、海外で認められるアートとは?
海外では、アートのコンセプトをきちんと言葉で表現するという文化があり、コンセプトが非常に重視されています。そこで、小熊さんと数回にわたってディスカッションを重ね、アートフィルムのコンセプト表現を磨き上げていくプロセスをサポートしました。
その結果、「祈り」というコンセプトが明確になり、コンセプトを強調するメッセージが追加されたことで、全世界に共感される作品となりました。
海外に伝えるためにアートフィルムの英語版作成と、ニュースリリースをNY配信
藤木のディレクションにより追加されたメッセージを含め、動画にはわかりやすい英語のナレーションをつけ、一連のプロジェクトをニュースリリースにまとめて、主要なNYメディアに配信しました。
このときに配信したニュースレターは、印刷したものを額装し、福岡アジア美術館に展示され、企画に参加した人々にも大いに喜ばれました。
日本的な文化と海外の橋渡しができ、小熊麻紗子さんの海外におけるアーティスト活動の第一歩となりました。
小熊 麻紗子
リサイクルの絹に油絵を描く。音楽と油絵の融合したアートフィルム制作とディレクション。全ての作品のテーマは、 “Love letter”。